東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)155号 判決 1985年7月25日
群馬県桐生市境野町六丁目四六〇番地
原告
株式会社三共
右代表者代表取締役
毒島邦雄
右訴訟代理人弁理士
杉林信義
同
深見久郎
同
森田俊雄
同
小柴雅昭
同弁護士
高橋早百合
東京都豊島区高田二丁目一二番二六号
被告
長谷川初子
東京都新宿区百人町二丁目二四番一号
被告
株式会社総技研
右代表者代表取締役
長谷川初子
東京都中野区中野三丁目七番三号
参加人
岩田寿
右訴訟代理人弁護士
雨宮正彦
同弁理士
瀧野秀雄
主文
特許庁が昭和五五年審判第九八六二号事件について昭和五八年三月二日にした審決を取消す。
訴訟費用は被告ら及び参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
原告は、「主文一項同旨。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、参加人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
被告らは、適式の呼出を受けながら本件準備手続期日及び口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかつた。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五五年六月六日、名称を「パチンコ遊技機における打玉自動供給装置」とする実用新案登録第一〇八三〇六四号考案(昭和四四年三月一五日出願、昭和四九年八月一六日出願公告、昭和五〇年六月九日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者として登録されていた被告両名を被請求人として、本件考案の登録無効の審判を請求し、昭和五五年審判第九八六二号事件として審理された結果、昭和五八年三月二日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年五月一八日原告に送達された。
二 本件考案の要旨
パチンコ遊技機1の玉受2に連結した傾斜通路3の終端を玉打杆4の直前すなわち玉打位置に臨ませると共に、該終端に低い障害5を設け、該低い障害5に隣接した通路3に昇降杆6を設け、これをモーター9により定速回転するカム7に連結したパチンコ遊技機における打玉自動供給装置。
(別紙図面(一)参照)
三 審決の理由の要点
本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。
これに対して、請求人(原告)は、本件考案は実用新案法第三条の規定に違反して実用新案登録されたものであるから、同法三七条の規定によつて無効とされるべきである旨主張し、その理由として、本件考案の要旨(構成)、目的ないし効果、特徴及び登録性(新規性、進歩性)並びに出願当時の技術状態について論述し、本件考案は、(1)甲第一号証及び甲第九号証ないし甲第一一号証の教示技術と甲第三号証、甲第五号証、甲第七号証及び甲第八号証の教示技術の単なる寄せ集めにすぎないもの(進歩性欠如)、(2)甲第一号証及び甲第九号証ないし甲第一一号証並びに甲第一二号証によつて進歩性はないもの、(3)甲第一三号証の命題を利用すると、甲第九号証及び甲第一二号証の公知技術の単なる寄せ集めにすぎないもの(新規性及び進歩性の欠如)等の見解を述べている(なお、本項における書証番号は、審判手続における書証番号による。)。
しかして、甲第一号証(特許出願公告昭三一-八五二〇号特許公報)には弾球遊戯器において競技球を発射位置に補給する装置の考案、甲第二号証(特許出願公告昭三九-二八七三七号特許公報)には特に円板状又は円板類似の形状の物品の小分け機の考案、甲第三号証(実用新案出願公告昭三八-二六八三四号実用新案公報)には野球競技における打撃術を練習する投球機械の考案、甲第四号証(実用新案出願公告昭三五-三一五一七号実用新案公報)にはゴルフ練習用のテイアツプ装置の考案、甲第五号証(実用新案出願公告昭三五-三一五一九号実用新案公報)にはゴルフ球自動給送機の球送出装置の考案、甲第六号証(特許出願公告昭四三-二五四六二号特許公報)には瓶詰物及び類似物の販売装置の考案、甲第七号証(株式会社朝倉書店発行機構学)及び甲第八号証(株式会社技報堂発行機械運動機構)には各種カムの考案、甲第九号証(実用新案出願公告昭三〇-一〇三三五号実用新案公報)にはパチンコ機におけるフオーク型玉送杆の考案、甲第一〇号証(特許出願公告昭二七-五三二五号特許公報)には弾球遊戯器における発射玉供給装置の考案、甲第一一号証(特許出願公告昭二八-六一一八号特許公報)には弾球遊戯器における発射弾球供給装置の考案、甲第一二号証(特許出願公告昭二九-一九二二号特許公報)には自動連続発射パチンコ機の考案、甲第一三号証(特許庁編、社団法人発明協会刊、審査基準の手引き、昭和四一年八月)には同一性の判断に関する特許庁の審査基準の一部が記載されている。
そこで、本件考案と甲各号証の考案を対比、考察するに、まず、甲第九号証及び甲第一二号証それぞれの考案から構成の一部を摘出し、摘出したもの同志を単に寄せ集めるようなことは両考案がそれぞれ合目的的に完成していることから到底考えられず、請求人の前記(3)の見解は妥当なものではなく、また、同(1)及び(2)の見解も次のとおり採用し難いものである。
すなわち、甲第一号証の考案における通路は第一区分と堰止部を提供する第二区分とからなるもので、したがつて通路(の一部)自体が低い障害を形成しており(換言すると、通路とは別個のものである低い障害は設けられていない)、また、この低い障害を形成している第二区分は一個の玉を載せたまま保持する作用を有し、したがつて送給される玉の運動径路として槓杆6等の働きをも受けて初球(通常、前の遊戯者が遊戯しようとした最後の玉)を(そこに)留め置く作用を有するものであり、さらに、その押上杆13は発射された玉と連動して励消磁する電磁石によつて運動するものであるから、該考案は本件考案とは全く別個の考案である。次に、甲第九号証の考案における終端に遮止堤14を有する流降路13は、その玉打位置との関係を除き、後述するフオーク杆6との関連構成において本件考案における傾斜通路と酷似するものではあるが、該フオーク杆は、衝撃杆3を動かすハンドル2の、復帰時を除けば、初期の移行時にのみこれと共に運動するものであるから、該フオーク杆を、このようなハンドルの初期の移行はもとよりその後の移行とも関係するところのないモーターとカムで上下動する昇降杆で置換するようなことは技術的に必然性はなく、該考案も本件考案とは全く別個の考案である。甲第一〇号証及び甲第一一号証の考案も、甲第九号証の考案に関し言及した後段の理由により、本件考案とは全く別個の考案である。そして甲第一二号証の考案は、自動連続発射パチンコ機において玉打杆をモーターにより定速回転するカムに連結することを教示しているが、自動連続発射パチンコ機とパチンコ遊技機における打玉自動供給装置とは同一ではなく、玉打杆をモーターにより定速回転するカムに連結することが究極的には玉の自動供給をも意図するものであるとしても、甲第九号証の考案との組み合せについては、その帰結としてフオーク杆をモーターにより定速回転するカムに連結するを得るにすぎず、前述のとおり昇降杆とフオーク杆とは互いに別個のものであるから、甲第九号証における構成要件(d)「昇降杆を玉打杆に連結する」ことに替えて甲第一二号証の「モーターにより定速回転するカムに連結する」ことを流用することは当業者にとつて極めて容易に達成できるとはいえず、該考案もまた本件考案とは全く別個の考案である。さらに、右において考察した甲各号証を除く他の甲各号証の考案は、いずれも本件考案を教示又は示唆するものではない。
畢竟、請求人の見解、主張は本件考案を各構成要件に分け、個々の構成要件を甲各号証の考案における個々の構成要件にあてはめ、そして独自に総合したものにほかならない。
以上のとおりであるから、請求人の主張は採用するに由ない。
四 審決の取消事由
本件審決は、以下のとおり、引用例記載の考案に開示された技術内容を誤認し、そのため本件考案と引用例記載の考案との対比を誤り、本件考案が引用例記載の考案からきわめて容易に考案をすることができないと誤つて判断した違法があるから、取消を免れない。
1(一) 初期のパチンコ遊技機では、玉をパチンコ遊技機前面の供給孔より一個ずつ手動的に入れて供給したうえ、玉打杆を手動的に弾くという玉打動作を行つていた。
右のような手動的な玉の供給に替えて、自動的な玉の供給を玉打動作に連動して又は同期して行う形式の自動玉供給装置が提案された。このような自動玉供給装置は、便宜上、「打玉動作同期型の自動玉供給装置」と呼ぶことができる。このような装置は、本件考案の出願前の刊行物である実用新案出願公告昭三〇一〇三三五号実用新案公報(審判手続における甲第九号証、以下「第一引用例」という。)及び特許出願公告昭二九-一九二二号特許公報(審判手続における甲第一二号証、以下「第二引用例」という。)にみられる。
他方、手動玉供給装置に替えて、打玉動作とは独立して駆動され、打玉動作と関係のない自動玉供給装置が開発された。このような玉供給装置を「打玉動作独立型の自動玉供給装置」と呼ぶことができる。このような装置は、本件考案の出願前の刊行物である特許出願公告昭三一-八五二〇号特許公報(甲第五号証)及び実用薪案出願公告昭三九-九一六〇号実用新案公報(甲第六号証)にみられる。
(二) ところで、本件考案は、前記考案の要旨によれは、
(a) パチンコ遊技機1の玉受2に連結した傾斜通路3の終端を、玉打杆4の直前すなわち玉打位置に臨ませると共に、
(b) 該終端に低い障害5を設け、
(c) 該低い障害5に隣接した通路3に昇降杆6を設け、
(d) 昇降杆6をモーター9により定速回転するカム7に連結した、
(e) パチンコ遊技機における打玉自動供給装置。
を構成要件とする。
そして、本件考案の訂正明細書(甲第二号証の二、登録実用新案審判請求公告)には、本件考案の目的に該当するものとして、「この考案はパチンコ遊技機の打玉を、玉打杆位置へ自動的に、しかも所定の速さを以て供給する装置で」(第一頁の訂正明細書の項左欄第七行ないし第九行)あるとの記載があり、また本件考案の効果に該当するものとして、「この考案装置は賞品玉は自動的に玉打位置に供給されるから客は玉を手で供給する面倒がなぐ、かつ敏速に玉を打つことができる。なおその供給する速さは予め定められた速さ、例えは規則によつて定められた一分間一〇〇個にしておけば、この速さよりも早く玉打レバーを操作しても制限以上の早さで玉を打つことができないから、連続打の速さは制限され規則に反することを防ぐことができるものである。」(第二頁左欄第二行ないし右欄第一行)との記載がある。
以上の記載によれば、本件考案は、前示のような構成、ことに構成要件(d)において、打玉動作と関係なく、昇降杆6をモーター9により定速回転するカム7に連結するという構成を採用することによつて、前記のような効果を奏するものであり、この本件考案の構成要件(d)とそれによつて奏する効果よりみれば、本件考案は、打玉動作独立型の自動玉供給装置の範疇に属するものであることは明白である。
(三) 第一引用例記載の考案を本件考案と対比すると、第一引用例記載の考案には、次の教示がある(別紙図面(二)参照。なお、対応する本件考案の構成部材等を括弧書で示す。)。
(a) パチンコ機(パチンコ遊技機)の図示されない玉受(玉受2)に連結した流降路13(傾斜通路3)の終端を衝撃杆3(玉打杆4)の直前すなわち軌道14'(玉打位置)に臨ませると共に、
(b) 該終端に遮止堤14(障害5)を設け、
(c) 該遮止堤14(障害5)に隣接した玉の流降路13(通路3)の途中ヘフオーク杆6の突上片9(昇降杆6)を設け、
(d) フオーク杆6をハンドル2により揺動される嵌当杆4(モーター9により定速回転するカム7)に連結した、
(e) パチンコ機(パチンコ遊技機)における玉送り装置(打玉自動供給装置)。
動作として、ハンドル2の操作により嵌当杆4が揺動され、それに連結されたフオーク杆6の突上片9が遮止堤14に隣接した玉の流降路13の途中で上下し、パチンコ玉を遮止堤14を越えて軌道14'に送る。
このような第一引用例記載の考案の構成と動作よりみて、第一引用例記載のパチンコ機は、前記のとおり打玉動作同期型の自動玉供給装置に関するものであること明白である。
(四) 以上の第一引用例記載の考案と本件考案との対比から明らかなように、両者の構成要件の各(a)、(b)、(c)及び(e)に関する限り、その技術的意義は同一であり、ただ表現上の差異があるに留まる。したがつて、本件考案において進歩性を論定すべき要点は一に構成要件(d)にかかわるものであり、詳言すれば、第一引用例記載の考案では、「フオーク杆6をハンドル2により揺動される嵌当杆4に連結」し、衝撃杆3による打玉操作に連動してまたは同期して打玉を自動供給する、いわゆる打玉動作同期型の自動玉供給装置の構成がとられているのに対し、本件考案は、昇降杆を打玉杆により駆動することに替えて、昇降杆を「モーターにより定速回転するカムに連結する」ことにより、打玉動作と関係のない定速回転のモーターで駆動する、打玉動作独立型の自動玉供給装置の構成をとつた点にあるものといわなければならない。
(五) ところで、打玉動作同期型の自動玉供給装置及び打玉動作独立型の自動玉供給装置は、いずれも本件考案出願前公知であり、これらは同一技術分野に属し、かつ自動玉供給という目的の点で共通していることから両形式の自動玉供給装置相互間で技術を流用し合う必然性が当然に存在し、このような必然性を前提として考察すれば、打玉動作同期型の自動玉供給装置における昇降杆すなわち「フオーク杆6」の上下駆動源を第一引用例記載の考案における「ハンドル2により揺動される嵌当杆4」に替えて他の上下駆動源に求めること、そして、その上下駆動源を第二引用例で公知であつた「モーターとカムよりなる上下駆動源」に置換して本件考案のようにすることの必然性は十分に存在したものというべきである。
すなわち、第二引用例には、打玉動作同期型の自動玉供給装置において、「打玉杆をモーターにより定速回転するカムに連結」して玉打動作を行わせることが示されているが、これとともに、「打玉杆をモーターにより定速回転するカムに連結する」ことが究極的には玉の自動供給をも意図するものであることも当業者に自明である。したがつて、第二引用例の記載に、玉自動供給の機能を果すべき、上下動駆動源としての「モーターにより定速回転するカム」が内在することは当業者においてきわめて容易に看取しうるところである。
それ故、第一引用例記載の考案におけるフオーク杆6の上下駆動源を右考案における「ハンドル2により揺動される嵌当杆4」とすることに替えて、第二引用例記載の考案における「モーターにより定速回転するカムに連結する」技術手段を流用して本件考案のようにすることは当業者にとつて極きわめて容易に達成できることである。
以上によれば、審決が第一引用例記載の考案と第二引用例記載の考案との組み合せについて、第一引用例の考案におけるフオーク杆6をモーターとカムで上下動する昇降杆で置換する技術的必然性を否定し、「昇降杆とフオーク杆とは互いに別個のものであるから、第一引用例における構成要件(d)『昇降杆を玉打杆に連結する』ことに替えて、第二引用例の『モーターにより定速回転するカムに連結する』ことを流用することは当業者にとつて極めて容易に達成できるとはいえず、該考案もまた本件考案とは全く別個の考案である。」とした認定、判断は誤りである。
(六) また、本件考案の第一の効果である「玉を自動的に玉打位置に供給する」ことは、第一引用例及び第二引用例の記載に基づき、また本件考案の第二の効果である「制限以上の早さで玉を打つことができないから、連続打の速さは制限され、規則に反することを防ぐことができる」という効果は、第二引用例の記載に基づきいずれも当業者が容易に予測することができたところである。
審決は、この点を看過し、そのために本件考案の進歩性の認定、判断を誤つた違法がある。
(七) 以上の原告の主張に対し、参加人は、「第二引用例には、特に昇降杆その他上下に移動する部材を『モーターにより定速回転するカムに連結する』構成が示されているというものではなく、したがつてまた、第二引用例に上下駆動源としての『モーターにより定速回転するカム』が内在していることを当業者がきわめて容易に看取できるということはできない。」旨主張する。
しかしながら、第二引用例記載の考案における「移動回転円盤23」は本件考案のカムに該当する。第二引用例記載の考案では、円盤23が一回転することに、この円盤23の一面20に設けた突起22の傾斜片21が球発射円盤29の係合部30に係合して、この円盤29に往復動を生じさせ、その結果、球送り板34、34'に往復動を生じさせる。ところで、このような回転体の回転を往復動に変換する機構は、種々の形式のものが本件考案出願前公知であり、特に構成要件(d)に関するものとして、「往復杆ないし昇降杆を定速回転するカムに連結する」こと自体は本件考案出願前当業者間に周知の慣用技術である(株式会社朝倉書店発刊「機構学」(昭和三六年四月五日初版発行、甲第八号証)の一二六頁、一二七頁、株式会社技報堂発行「機械運動機構」(昭和三二年一〇月一五日初版発行、昭和三五年一月二〇日第三版発行、甲第九号証)の一七〇頁ないし一七三頁)。
右慣用技術ないし周知技術を念頭において第二引用例を考察すれば、第二引用例には往復杆ないし昇降杆をモーターにより定速回転するカムに連結する構成が示されているということができ、したがつて、第二引用例に玉自動供給機能を果すべき往復駆動源ないし上下駆動源としての「モーターにより定速回転するカム」が内在していることを当業者がきわめて容易に看取できるものというべきであつて、参加人の右主張は失当である。
また、参加人は、「第二引用例記載の考案における電動機により定速回転する移動回転円盤は球発射円盤を駆動するためのものであるから、当業者が第二引用例により当然に第一引用例記載の考案におけるフオーク杆6の上下駆動源として『モーターにより定速回転するカム』を着想する技術的必然性があるとまでいうことはできない。」旨主張している。
しかしながら、たとえ第二引用例記載の考案における電動機により定速回転するカム(突起22を有する移動回転円盤23)が球発射円盤を駆動するためのものであるとしても、同時にそれに往復動を生じさせ、その結果二枚の玉送り板34、34'を往復動させているのであるから、前記甲第七、第八号証の文献にみられるように、「往復杆ないし昇降杆を定速回転するカムに連結する」こと自体は、本件考案出願前当業者間に周知の慣用技術であることをあわせ考慮すれば、当業者が第二引用例により第一引用例記載の考案におけるフオーク杆6の上下動ないし往復動の駆動源として「モーターにより定速回転するカム」を着想する技術的必然性が当然に存在するというべきである。
よつて、参加人の右主張も失当である。
2(一) 前記のとおり、第一引用例は、手動による打玉動作を伴う打玉動作同期型の自動玉供給装置を教示しており、本件考案に対応するものとして、前項(三)記載の教示がある。
他方、第二引用例記載の考案は、究極的には玉の自動供給を目的として、「球発射円盤29を電動機2により定速回転する移動回転円盤23に連結する」構成をとつている。
したがつて、第一引用例記載の考案における手動による玉打動作を第二引用例記載の考案における自動玉打動作にかかる技術手段を用いて自動化する目的で、両者の構成要件をなす技術を寄せ集め、「第一引用例記載のフオーク杆6を第二引用例記載の球発射円盤29に連結し、球発射円盤29を第二引用例記載の電動機2により定速回転する第二引用例記載の移動回転円盤23に連結する」構成をとれは、それはとりも直さず、自動による玉打動作形式の打玉動作同期型の自動玉供給装置における「昇降杆をモーターにより定速回転するカムに連結する」のと同一技術となり、したがつて、第一引用例記載の考案と第二引用例記載の考案の単なる寄せ集めは、それが打玉動作同期型の自動玉供給装置であり、本件考案が打玉動作独立型の自動玉供給装置であることを除き、それ以外の点で本件考案と同一である。
(二) ところで、第一引用例記載の考案は手動による玉打動作を伴う打玉動作同期型の自動玉供給装置であり、第二引用例記載の考案は自動による玉打動作を伴う打玉動作同期型の自動玉供給装置であるので、両者は同一技術分野に属し、かつパチンコ遊技機における打玉動作同期型の自動玉供給装置という点で共通していることから、両者の自動玉供給装置相互間で技術を流用し合う必然性が当然存在し、特に第一引用例記載の考案における手動による玉打動作を第二引用例記載の考案における自動玉打動作にかかる技術手段を用いて自動化する目的で、両者の構成要件をなす技術を寄せ集めることに特に必然性が存在する。
しかるに、審決は、「第一引用例及び第二引用例それぞれの考案から構成の一部を摘出し、摘出したもの同志を単に寄せ集めるようなことは両考案がそれぞれ合目的的に完成していることから到底考えられ」ない旨説示しており、右は第一引用例と第二引用例を寄せ集めることの必然性を看過したものである。
(三) ところで、第一引用例記載の考案と第二引用例記載の考案の単なる寄せ集め自体は、それが打玉動作同期型の自動玉供給装置であるのに対し、本件考案が打玉動作独立型の自動玉供給装置であることを除き、それ以外の点で本件考案と同一となること前述のとおりであるところ、本件考案の出願前打玉動作同期型の自動玉供給装置も打玉動作独立型の自動玉供給装置もともに当業者によく知られていたので、前者の構成に含まれる自動玉供給装置部分のみ、すなわち、「昇降杆をモーターにより定速回転するカムに連結する」構成のみを抽出し、本件考案出願前公知の手動による玉打動作形式の玉打装置のパチンコ遊技機に用いれば、それはとりも直さず本件考案の構成要件そのものとなる。前述の第一引用例及び第二引用例の単なる寄せ集め自体から、本件考案の構成に至る右のような変更は、本件考案出願当時の技術水準を参酌すれば、当業者にとつてきわめて容易に想到しうる程度のことで、何らの構成の困難性を伴うものではない。
そして、本件考案の効果は、第一引用例及び第二引用例の考案から予測可能なことであることは前記のとおりである。
しかるに、審決は、第一引用例及び第二引用例の単なる寄せ集めの技術的必然性を看過し、その寄せ集めに基づく本件考案の構成の想到容易性、及び本件考案の効果の予測可能性についての認定、判断を誤つた違法がある。
第三 参加人の答弁及び主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 同四の審決の取消事由の主張は争う。
1 同四、1の主張について。
第二引用例には球発射円盤29を電動機2により定速回転する移動回転円盤23に連結する構成が示されており、右球発射円盤29は玉打杆に、移動回転円盤23はカムにそれそれ一応該当するとしても、第二引用例には、特に昇降杆その他上下に移動する部材を「モーターにより定速回転するカムに連結する」構成が示されているというものではなく、したがつてまた第二引用例に上下駆動源としての「モーターにより定速回転するカム」が内在していることを当業者がきわめて容易に看取できるということはできない。また、原告のいう打玉動作同期型の自動玉供給装置と打玉動作独立型の自動玉供給装置の相互間で技術を流用し合う必然性が当然に存在するといいうるかきわめて疑問であるばかりでなく(これを認定するに足る証拠はない。)、仮にそうであるとしても、原告の定義によれば、打玉動作同期型か打玉動作独立型かの分類は、手動か電動かの分類とは別個であり、また、前記のとおり、第二引用例記載の考案における電動機により定速回転する移動回転円盤は球発射円盤を駆動するためのものであるから、当業者が第二引用例により当然に第一引用例記載の考案におけるフオーク杆6の上下駆動源として「モーターにより定速回転するカム」を着想する技術的必然性があるとまでいうことはできない。
したがつて、原告の主張からしても、第一引用例記載の考案における「フオーク杆6」の上下駆動源を「ハンドル2により揺動される嵌当杆4」とすることに替えて、第二引用例記載の考案における「モーターにより定速回転するカムに連結する」技術手段を流用して本件考案のようにすることは、当業者がきわめて容易に達成することができたという帰結は当然には得られない。原告の主張には論理上飛躍があり、主張自体失当というべきである。
2 同四、2の主張について。
原告は、第一引用例記載の考案における手動による玉打動作を第二引用例記載の考案における自動打玉動作にかかる技術手段を用いて自動化する目的で、両者の構成要件をなす技術を寄せ集めるというが、このような寄せ集めをなすこと自体、当業者がこれをきわめて容易になしえたことを認めるに足る証拠はなく、また第一引用例記載の考案と第二引用例記載の考案とは互いに全く構成の異なる装置に関するものであり、自動玉供給機構も別異であから、右両引用例記載の技術を寄せ集めたとしても、当然に原告の主張する「第一引用例記載のフオーク杆6を第二引用例記載の球発射円盤29に連結し、球発射円盤29を第二引用例記載の電動機2により定速回転する第二引用例記載の移動回転円盤23に連結する」という構成が得られるというものではない。原告も右のような「構成をとれば」として、暗に、右両引用例を寄せ集めても必ずしも右構成に至る技術的必然性がないことを自認しているが、このような技術的必然性がない以上、右寄せ集めの主張は、結局、本件考案の構成を前提として、これに副う個々の構成を第一引用例記載の考案及び第二引用例記載の考案からそれぞれ個別に適宜抽出して当てはめたというにすぎず、当業者が右両引用例記載の技術から本件考案の構成をきわめて容易に想到しえたとする論拠とはなしえない。
原告の主張中「前記の構成から『昇降杆をモーターにより定速回転するカムに連結する』構成のみを抽出し」という部分もこのような抽出の技術的必然性がない以上、 きわめて恣意的といわざるをえず、主張自体無理がある。
第四 証拠関係
証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、原告と参加人間において争いがなく、被告両名については、民事訴訟法第一四〇条第三項の規定により右事実を自白したものとみなす。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証の二(登録実用新案審判請求公告)によれば、本件考案の目的及び効果として、訂正明細書に、「この考案はパチンコ遊技機の打玉を、玉打杆位置へ自動的に、しかも所定の速さを以て供給する装置で、」(第一頁の訂正明細書の項左欄第七行ないし第九行)、「この考案装置は賞品玉は自動的に玉打位置に供給されるから客は玉を手で供給する面倒がなく、かつ敏速に玉を打つことができる。なおその供給する速さは予め定められた速さ、例えば規則によつて定められた一分間一〇〇個にしておけば、この速さよりも早く玉打レバーを操作しても、制限以上の早さで玉を打つことができないから、連続打の速さは制限され規則に反することを防ぐことができるものである。」(第二頁左欄第二行ないし右欄第一行)とそれそれ記載されていることが認められ、その構成は、前示のとおり、「パチンコ遊技機1の玉受2に連結した傾斜通路3の終端を玉打杆4の直前すなわち玉打位置に臨ませると共に、該終端に低い障害5を設け、該低い障害5に隣接した通路3に昇降杆6を設け、これをモーター9により定速回転するカム7に連結したパチンコ遊技機における打玉自動供給装置」である。
ところで、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)には「パチンコ機に於けるフオーク型玉送杆」の考案(別紙図面(二)参照)、成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)には「自動連続発射パチンコ機」の考案(別紙図面(三)参照)、成立に争いのない甲第五号証(特許出願公告昭三一-八五二〇号特許公報)には「弾球遊技器に於て競技球を発射位置に補給する装置」の考案(別紙図面(四)参照)、成立に争いのない甲第六号証(実用新案出願公告昭三九-九一六〇号実用新案公報)には「パチンコ機における打球の供給装置」の考案(別紙図面(五)参照)に関する記載がそれぞれなされているが、右各考案にかかるパチンコ機においては、客は、玉をパチンコ遊技機前面の供給孔より手で一個ずつ供給する必要はなく、自動的に玉が玉打位置に補給される仕組になつているものであつて、パチンコ機におけるこのようなパチンコ玉供給装置は本件考案出願前周知のものであつたことが認められる。そして、第一引用例記載のパチンコ機、甲第五号証記載の弾球遊戯器、同第六号証記載のパチンコ機においては、玉受に連結した傾斜通路の終端に玉の流下を妨げる低い障害(第一引用例記載のパチンコ機では遮止堤14、甲第五号証記載の弾球遊戯器では堰止部23、同第六号証記載のパチンコ機では隆起部2)が設けられており、玉が右障害を越える手段を講ずることによつて(第一引用例記載のパチンコ機ではフオーク杆6の突上片9の上下動、甲第五号証記載の弾球遊戯器では電磁石15の励消磁による押上杆13の作動、同第六号証記載のパチンコ機では電磁石3の励磁)、玉が玉打位置に供給される構成となつていることが認められ、右認定事実によれば、玉受に連結した傾斜通路の終端に玉の流下を妨げる低い障害を設け、玉がそれを越える手段を講ずることによつて、玉打位置に玉を供給する技術は本件考案出願前周知であつたと認めることができる。
本件考案の目的、効果及び構成ならびにパチンコ玉供給装置に関する本件考案出願前の右周知技術を併せ考えると、本件考案は、玉打杆4の直前すなわち玉打位置に臨む傾斜通路3の終端に設けた低い障害5を玉が越えるための手段として昇降杆6の上下動の動作を採択し、その運動機構として、昇降杆6を駆動源であるモーター9により定速回転するカム7に連結した点を必須の構成要件とするものと認められる。
2 前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、実用新案の性質、作用及び効果の要領の項に、「本案に於てハンドル2を僅かに移動せしむれば衝撃杆3も共に移動する故嵌当杆4の曲部5は弾線11を引張しつゝ軸1を中心として回動するを以つてフオーク杆6は下から上方へ引上せられ遮止突部8は支版10の下面10'に衝止す、斯くする時図面第4図に示す流降路13のAの場合よりフオーク杆6の上揚に依つて突上片9は玉12を(「と」とあるのは「を」の誤記と認める。)下方より衝き上げ、玉12は図面Bに示す如く流降路13の遮止堤14上に玉12は乗せ揚げられ且フオーク杆6の上端に依り玉は支えられ落下するを防遮せしむ、この状態よりハンドル2を更に移動すれば衝撃杆3の回動により弾線11を引張して打玉せんとする位置迄ハンドル2を移行す、此の場合フオーク杆6は遮止突部8が已に支版5の下面10'に衝止しているから移動せさることは勿論なりとす、斯くしてハンドル2を放てば衝撃杆3は原状に復さんとして打玉しフオーク杆6は降下せらるゝ故図面Cに示す如くフオーク杆6にて支持せる遮止堤14上の玉12は玉の自重に依り軌道14'上に転入す、」(第一頁左欄第二四行ないし右欄第一二行)との記載があることが認められる。
右記載によれば、第一引用例記載のパチンコ機においては、玉受に連結した流降路13の終端が衝撃杆3の直前、すなわち軌道14'に臨んでおり、右終端に玉の流下を妨げる低い障害である遮止堤14が設けられており、玉が右障害を越えるための手段として、流降路13の途中に、フオーク杆6に取着された突上片9が設けられていること、そして、ハンドル2の操作によつて、衝撃杆3による打玉動作がなされ、これらの作動に連動して嵌当杆4が揺動され、嵌当杆4に連結されたフオーク杆6の突上片9が上下動の作動を行うことによつて、玉が遮止堤14上に乗り、次いで軌道14'上に転入して供給されるものであること、すなわち、第一引用例には、「パチンコ機の玉受に連結した玉の流降路13の終端を衝撃杆3の直前すなわち軌道14'に臨ませると共に、該終端に遮止堤14を設け、該遮止堤14に隣接した玉の流降路13の途中にフオーク杆6の突上片9を設け、これをハンドル2により揺動される嵌当杆4に連結したパチンコ機における玉送り装置」なる構成が開示されているものと認められる。
この第一引用例記載のパチンコ機における「流降路13」、「衝撃杆3」、「軌道14'」、「遮止堤14」、「突上片9」は、その構成及び作用からして、本件考案における「傾斜通路3」、「玉打杆4」、「玉打位置」、「低い障害5」、「昇降杆6」にそれぞれ相当するものと認められる。
3 ところで、前記のとおり、第一引用例記載のパチンコ機においては、突上片9を取着しているフオーク杆6をハンドル2により揺動される嵌当杆4に連結し、打玉動作に連動して玉を玉打位置に供給する構成(このように玉の供給が打玉動作に連動して行われる形式のものを、以下、「打玉動作同期型の玉供給装置」という。)がとられており、一方本件考案にかかるパチンコ遊技機においては、玉打位置への玉の供給が打玉動作とは関連のない構成(このような形式のものを、以下、「打玉動作独立型の玉供給装置」という。)となつている。
そして、本件考案にかかるパチンコ遊技機と第一引用例記載のパチンコ機を対比すると、両者は、右のとおり、玉供給装置としての形式を異にするうえ、玉が障害(第一引用例記載のパチンコ機における遮止堤14、本件考案にかかるパチンコ遊技機における低い障害5)を越えるための手段として設けられた上下に作動する部材(突上片9、昇降杆6)を駆動させるために、第一引用例記載のパチンコ機においては、突上片9を取着したフオーク杆6を「ハンドル2により揺動される嵌当杆4に連絡した」のに対し、本件考案にかかるパチンコ遊技機においては、昇降杆6を「モーター9により定速回転するカム7に連結した」点が相違しており、右相違点以外には、玉打位置への玉供給装置に関して、本件考案にかかるパチンコ遊技機と第一引用例記載のパチンコ機とは実質上相違するところはない。
4 そこで、打玉動作同期型の玉供給装置である第一引用例記載のパチンコ機におけるフオーク杆6を「ハンドル2により揺動される嵌当杆4に連結する」ことに替えて、打玉動作独立型の玉供給装置である本件考案にかかるパチンコ遊技機において昇降杆6を「モーターにより定速回転するカムに連結する」という構成をとることが、当業者にとつてきわめて容易に想到しうることであるか否かについて検討する。
(一) 傾斜通路の終端に低い障害を設け、玉を、特定の手段を講じてこの障害を越えさせ、玉打位置に供給する形式のパチンコ機において、打玉動作同期型の玉供給装置が本件考案出願前周知であつたことは第一引用例により明らかであり、前掲甲第五、第六号証によれば、同各号証記載のパチンコ機は打玉動作独立型の玉供給装置のものであつて、右装置も本件考案出願前周知であつたことが認められる。
ところで、打玉動作同期型の玉供給装置においては、玉供給装置を打玉動作と関連づけて構成する必要があり、玉が障害を越えるための手段として設けられる上下に移動する部材と打玉機構との関連構成を採用することが不可欠の事項であり、そのうえで駆動源をどのように配置すべきかを配慮することとなる。
これに対し、打玉動作独立型の玉供給装置においては、打玉動作と関連づけることなく、単に上下に移動する部材の構成のみに着目し、それに副う駆動源を配置すれば足りる。
右のとおり、打玉動作同期型の玉供給装置は、打玉動作独立型の玉供結装置に特殊な手段を講ずることにより達成されるのであるから、打玉動作同期型の玉供給装置を打玉動作独立型の玉供給装置に変更することは、その構成を単純化するものにすぎず、決して困難を伴うものでないことは明らかである。
(二) 前掲甲第四号証によれば、第二引用例には、発明の詳細なる説明の項に、「電動機2を回転させると、主プーリー3が回転し」(第二頁左欄第四行から第五行)、「他方プーリー4は回転軸6を空転している。そこで遊戯者は函体1外側の把手14を下方へ押下げると、これに連なる連杆15の先端に形成した鉤形押上杆16によつて、ベルクランク形押圧体11の他端13が押上げられ、その他端12がプーリー4の側面を押圧するから、このプーリー4の他面が回転円盤7の円輪形皮革製摩擦帯10に圧接し、プーリー4の回転がこの回転円盤7に伝わり回転を開始するから、回転軸6が回転し移動回転円盤23が共に回転する。この円盤23が一回転する毎に、この円盤23の一面20に設けた突起22の傾斜辺21が球発射円盤29の係合部30に係合して、この円盤29をバネ31の引張力に抗して回動させる。この円盤29の回動につれて、この円盤29の上部に設けた突子42の先端が係合片37の下部に係合して枢軸38を中心として係合片37を回転させるから二枚の球送り板34、34'は互いに反対方向に移動し、下方の球送板34'の発射球通過孔40'が全開して第一番目の発射球35を球発射位置33に落下させると同時に、上方の球送り板34の発射球通過孔40が半開となつて、第二番目の発射球35の落下を阻止する。」(同左欄第一二行から第三三行)、「更に移動回転円盤33の回転が進めば、その突起22の傾斜辺21と球発射円盤29の係合部30との係合が外れて、円盤29はバネ31の引張力によつて急速に元の位置に復帰する。この円盤29の復帰力によつて球発射位置33に落下した発射球は打球子32によつて打撃されて発射」(同左欄第三四行から第四〇行)すると記載されていることが認められる。
この球発射円盤29は、その構成及び作用からして、本件考案にかかるパチンコ遊技機の玉打杆4に、移動回転円盤23はカム7にそれぞれ相当するものと認められるから、第二引用例には、「玉打杆をモーターにより定速回転するカムに連結する」構成が示されているものということができる。
さらに、右記載から明らかなとおり、第二引用例記載の自動連続発射パチンコ機は、球発射円盤29と玉供給手段とが関連している打玉動作同期型の玉供給装置であつて、電動機2の回転により、移動回転円盤23を介して球発射円盤29を作動させて玉を発射するとともに、球発射円盤29の作動により玉を球発射位置33に落下させて打玉の供給を行つているのであるから、結局、第二引用例には、右パチンコ機において、駆動源としてモーターを用い、このモーターの回転をカム手段を介して所定方向の運動に換えて、球発射円盤29を作動させ、それによつて玉の発射及び打玉の供給をなす構成が開示されているということかできる。
(三) 一般的に、被駆動部材の駆動源としてモーターを用いることは技術的な常識であり、また、成立に争いのない甲第八号証(株式会社朝倉書店発行「機構学」昭和三六年四月五日初版発行、一二六頁、一二七頁)によれば、回転運動を往復直線運動に変換するためにカムを介在させることは機構設計に関しての慣用技術であることが認められる。
以上(一)ないし(三)を総合すると、第一引用例記載の突上片9が取着されたフオーク杆6の上下動の駆動源を「ハンドル2により揺動される嵌当杆4に連結する」ことに替えて、「モーターにより定速回転するカムに連結する」ことを採用し、本件考案における昇降杆6を上下動せしめる駆動源としてモーターを用い、これにより定速回転するカムを昇降杆に連結するという構成を採用することは、当業者がきわめて容易に想到しうる程度のことと認めるのが相当である。
参加人は、「第二引用例には、特に昇降杆その他上下に移動する部材を『モーターにより定速回転するカムに連結する』構成は示されておらず、第二引用例記載の自動連続発射パチンコ機の電動機2により定速回転する移動回転円盤23は球発射円盤29を駆動するためのものであるから、第一引用例記載のパチンコ機におけるフオーク杆6の上下駆動源を『ハンドル2により揺動される嵌当杆4』とすることに替えて、第二引用例記載の考案における『モーターにより定速回転するカムに連結する』技術手段を適用して本件考案のようにすることは当業者がきわめて容易に達成できたとはいえない。」旨主張する。
確かに、第二引用例には、「昇降杆その他上下に移動する部材をモーターにより定速回転するカムに連結する」構成は示されていないし、第二引用例記載の電動機2により定速回転する移動回転円盤23を介して駆動されるものは球発射円盤29である。
しかしながら、第二引用例記載の自動連続発射パチンコ機において、駆動源としてモーターが用いられ、モーターの回転をカム手段を介して所定方向の運動に換えて、球発射円盤29を作動させ、それによつて、玉の発射と打玉の供給をなす構成が開示されていること及び被駆動部材の駆動源としてモーターを用い、モーターによる回転運動を往復直線運動に変換するためにカムを介在させることは機構設計に関する慣用手段であることは、前記説示したとおりであつて、それらのことから、第一引用例記載のフオーク杆6の上下駆動源を「ハンドル2により揺動される嵌当杆4」とすることに替えて、第二引用例に示されている「モーターにより定速回転するカムに連結する」技術手段を適用して本件考案のような構成とすることは、当業者にとつてきわめて容易に想到しうるものであること明らかであつて、参加人の前記主張は採用できない。
そして、本件考案がその構成をとることによつて前叙のような効果を奏することは、当業者が第一、第二引用例記載の各考案に基づき通常予測しうる範囲に属することは明らかである(客が制限以上の速さで玉を打つことができないとの効果も、打玉動作独立型の自動玉供給装置の有する効果であり、モーターの速度によつて玉の供給、打玉の速度が一定に抑えられるという点は第二引用例記載の考案によつてもたらされる当然の効果にすぎない。)。
以上の次第であつて、第一引用例と第二引用例記載の各考案の組み合せについて、「第一引用例における構成要件(d)『昇降杆を玉打杆に連絡する』ことに替えて第二引用例の『モーターにより定速回転するカムに連結する』ことを流用することは当業者にとつて極めて容易に達成できるとはいえない」とした審決の認定、判断は誤つたものといわざるをえず、審決は、原告主張のその余の取消事由について判断するまでもなく、違法として取消を免れない。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 蕪山嚴 裁判官 竹田稔 裁判官 濵崎浩一)
別紙
(一)
<省略>
(二)
<省略>
(三)
<省略>
(四)
<省略>
(五)
<省略>